マーケティングの世界には、「マーケット・イン」と「プロダクト・アウト」という言葉があります。
マーケット・インとは、市場から吸い上げた顧客ニーズに合わせて商品開発やマーケティングを行っていく考え方のことを指し、プロダクト・アウトとは、自社の得意な技術を生かした商品開発を行い、それを買ってくれそうな顧客を探してマーケティングしていく考え方です。
つまり、マーケット・インは顧客目線、プロダクト・アウトは企業目線に立ったマーケティング手法と言えます。
そう聞くと、「プロダクト・アウトは作れば売れると思っている傲慢な考え方で、マーケット・インの考え方を推し進めるべき」っと思いませんか?
しかし、実際はそう単純な話には収まりません。
今回は、昨今のマーケティングの潮流を「マーケットイン」「プロダクトアウト」の2つの視点から見ていくことにします。
マーケット・インとプロダクト・アウトの特徴
マーケット・インとは、顧客が欲しているものを調べてそれを作って売っていきます。
何事にも顧客目線からスタートします。
綿密な市場調査により、
「今、顧客はどんな商品や機能があったら良いなと思っているのか?」
「今、どんな商品が売れているのか?」
このような顧客ニーズを見定めてきます。
ニーズを把握して初めて、「果たして、うちの会社でそんな商品は作れるか?」ということを考え始めます。
市場第一主義で商品を作れば、「誰も求めていないトンチンカンな商品」を作ってしまうことは少なくなります。
もし、他社がまだ出していない商品を、先駆けて市場に出すことができれば、先行者利益を享受することができます。
一方、プロダクト・アウトの考え方では、「何を作るか?」からまず考え始めます。
「こんな技術が実現すれば、世界初じゃないか?」
「うちの技術の強みを生かすには、こんな商品を売るのが良い!」
こういったことを話し合いながら、商品イメージを固めていきます。
商品企画が固まってから、誰に売り込むのかを考えます。
以上の開発プロセスの特徴から、一旦顧客の心をつかむことができれば、大ヒットになる可能性が高いです。
自社の独自技術を使用しているため、他社から模倣される可能性が低く、革新的アイデアがブームを呼び起こす可能性もあります。
良いものさえ作れば売れるのか?
日本は高度経済成長期を過ぎるまで、プロダクト・アウトの考え方でモノづくりを行ってきたと言われます。
国全体の経済が上向きで、企業の成長と共に市民の生活もどんどん豊かになっていきました。
消費に積極的な消費者に囲まれ、企業にとっては「もっとたくさん!もっと良いものを!」という時代が続いた訳です。
ところが、経済成長が鈍化してくるにつれて作ったものが余るようになってきました。
それではもっと優れた商品を作ろうと商品開発に精を出すも、すでに企業の提供する商品のスペックが顧客の求めるスペックを上回っており、企業の作るものと顧客の欲しいものの乖離が進んでいきました。
このように、プロダクト・アウトの考え方は、顧客を置き去りにしてしまう危険性をはらんでいます。
ユーザー第一主義が正しい!?マーケットインの限界
その後、マーケティングの潮流は「顧客第一主義」に舵を切りました。
(というより、プロダクト・アウトの時代のマーケティングは、認知度を上げるための”宣伝”が主でした。)
企業が作りたいものではなく、顧客が欲しいものをつくる、という方針に切り替えました。
店内の監視カメラを使って顧客の目線を分析したり、会議室に集めてインタビューしたり、アンケートで意見を聞いたり、様々な手法で「顧客が何を求めているのか?」を調査しました。
マーケット・インによって、不況の時代にあっても安定した売上を確保することができます。
ところが、マーケット・インの考え方にも弱点は存在しました。
顧客は、真の意味で「自分は本当は何が欲しいのか?」を理解していないのです。
顧客に対していくら調査をかけても、返ってくる反応は「顧客が創造し得る範囲で考えるニーズ」に限られます。
まだこの世に登場していなかったり、見たことや聞いたことがない商品やサービスを指して、「もしこれが売られていたら、私は絶対買うわ!」と言うことはできないのです。
さらに悪いことに、もし仮にその商品やサービスのことが頭にあったとしても、それらの良さを理解していない可能性があります。
非常に分かりやすい事例が、スマートフォン(厳密にはiPhone)の登場です。
スマートフォンの登場は、プロダクト・アウトの開発手法により実現したものです。
ガラケーユーザーにいくら聞き込みをしても、「電話やメールだけじゃなくて音楽聞くのもネットもサクサクできるタッチパネル式の端末があったらな。」という意見は聞こえてこなかったでしょう。
また、スマートフォンが世に登場した後も、「何かスマホって使いづらそう。これまで通りのケータイが良いわ。」と話す顧客は大勢いました。
律儀にも、日本の携帯電話メーカーはその”顧客の声”を聞き取り、しばらくの間いわゆるガラケーを作り続けました。
街でガラケーを使っている人を見つける方が難しくなった今の時代から考えれば、信じられない話ですよね。
このように、マーケット・インの姿勢では革新的な商品を生み出すことや、潮目が変わった時に素早く開発方針を切り替えることが難しいと言われています。
まとめ:結局、両方の視点が必要
まとめると、マーケット・インとプロダクト・アウトの双方の考え方には、それぞれ長所と短所が存在していて、どちらかのスタンスに固執するのではなく、取り巻く環境に合わせて使い分けることが重要だということです。
商品づくりやマーケティングの仕事に携わる際は、本記事を参考にしていただければ幸いです。
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