サプライチェーン・マネジメントは、昨今のIT技術の高度化に相まって、ビジネスにおけるその重要性を増しており、ビジネスを語る上では欠かせない知識となっています。是非皆様も本記事でその大枠を掴んでください。
要旨
- サプライチェーンマネジメントとは、ビジネスにおける材料調達〜製造〜流通〜販売の一連の流れとそれを支えるITインフラ、人材等すべての要素の最適化を目指す管理手法
- サプライチェーンマネジメントが脚光を浴びている理由は以下の4つ
- サプライチェーン改革自体が新たな価値を生む
- 企業の競争力の源泉に
- ビジネスの更なるグローバル化
- 顧客の価値感の多様化
サプライチェーン・マネジメントとは?
そもそも、サプライチェーンってご存知でしょうか? ビジネス系雑誌やネット記事等で言葉くらいは聞いたことがあるかもしれません。
日本語に直訳すると、「供給連鎖」となりますが、モノを売るビジネスなんかで見られる、製造から流通、店舗販売までの一連の流れを指します。
アパレル業界を例にとって考えてみましょう。とあるアパレルメーカーが今春に向けて、流行り(?)のオーバーサイズTシャツを発売する、とします。
ファッションデザイナーが来春のトレンドを調査し、新しいTシャツをデザインします。その後、生産に入りますが、Tシャツの縫製に使用する布生地や糸、染料等は他社の繊維メーカーや化学メーカーに外注していることが多いです。布・糸・染料等を仕入れた後は、自社工場でTシャツを作っていきます。最近のアパレルメーカーはどこも製造工程が機械化されており、短期間での大量生産が可能です。
Tシャツができたら、検品にて品質を確かめた後に倉庫にて保管されます。シーズンが近づき、小売店からのオーダーが入り次第、トラック等にて店舗へと出荷します。最近は工場を海外に移転している場合も多くありますが、この場合は船または飛行機での輸送が必要です。また、この場合の小売店は、アパレルメーカーの直営店の場合もあれば、セレクトショップが卸先のこともあります。
こうして、店頭に並んだオーバーサイズTシャツを店頭で手に取り、購入することができます。
この例におけるサプライチェーンは、
デザイン → 材料の仕入れ → 製造 → 検品 → 倉庫保管 → 出荷 → 輸送 → 小売店にて保管 → 棚に陳列 → 購入
この一連の流れ(まるで一本の鎖のよう)にあたります。
そして、「サプライチェーン・マネジメント」とは、企業がお客様に価値を提供するまでの一連の流れを”最適化”する仕事です。流れを最適化するという目的から、マネジメントの対象は「チェーン」の上にある仕事に留まらず、商品の販売を促進する営業やマーケティング、カスタマーサービス、チェーンを支えるITインフラや人事制度にまで及びます。また、アパレルメーカーの例で少し触れましたが、「チェーン」には取引先やグループ会社も関わります。まさに、「ビジネス全体の最適化を目指す仕事」と言っても過言ではありません!!
サプライチェーンマネジメントが脚光を浴びる理由
それでは、サプライチェーンマネジメントが今注目を集めているのは何故なのでしょうか?
サプライチェーンの改革自体が新たな価値を生むから
以下に、サプライチェーンにおけるイノベーションの結果実現した商品やサービスを並べます。
Amazon
最も有名で、かつ理解しやすいのがAmazonの例です。彼らは自身を”Everything Store(何でもあるお店)”と呼んでいるようですが、2016年の時点で約1200万点の商品を取り扱っているそうです。利用者の肌感としても、「アマゾンで調べれば大体のものは出てくる」のではないでしょうか。しかも価格が安い。こうなると、どんな商品も「とりあえずアマゾンで買っておけば間違いない」となるでしょう。小売業の常識では、数千万点の商品を抱えながら常に安い値段を提供できるというのは、あり得ないことです。
さらに、翌日配達を可能にしたのもアマゾンです。ネットでポチった商品が次の日には玄関に届く。よく考えればとんでもないことです(場合によっては当日配達もありますよね)。これは、注文を受けた直後から配送完了までの時間を極限まで短くする、まさに究極のサプライチェーンマネジメントを実現した結果です。
FedEx
アメリカの大手配送会社であるFedEXに頼めば、フェデックス・インターナショナル・プライオリティというサービスで世界中どこでも1〜3営業日で荷物を届けることができます。凄まじい速さです。さらに、海外に荷物を送るのは「紛失されたらどうしよう」という不安が付き物かと思いますが、彼らのトラッキングサービスにより、配達物が今どの地点にいるのかをリアルタイムで確認することができます。これらも、無駄のない正確なサプライチェーンマネジメントが可能にしたサービスです。
Timbuk 2
米サンフランシスコにあるバッグメーカーです。機能性メッセンジャーバッグで有名な会社で、私も日本のセレクトショップでTimbuk 2が並んでいるのを度々目撃したことがあります。彼らの凄さは「カスタマイズ」です。セミオーダーのメッセンジャーバッグを約3週間で手に入れることができるのですが、バッグの外側から内側まで細かくカスタマイズできます。
「顧客の好みに合わせて配色を3パターンほど用意しました」、というのがアパレル業界の常套手段(事前に用意したパターンの中から好きなものを選んでもらう)です。そうしないと、生産工場側は、予想できない顧客の好みに合わせて生産ラインを逐一変更する必要がありますし、膨大な点数の素材や部品を倉庫にため込んでおかなければならず管理費が膨れ上がりますので。ライン生産せずに作るという手もありますが、それでは時間もかかるし製造可能個数に限りがあります。
この問題をTimbuk 2は、信じられないパターンのカスタマイズ性を提示しながらそれをライン生産する、というサプライチェーンのイノベーションにより解決したのです。
どの例も、究極のサプライチェーンを目指した結果、それ自体が他企業との大きな差別化要素となり、顧客から選ばれるようになっています。
日本ではまだ見かけませんが、海外の企業では、CIO(最高情報責任者), CFO(最高財務責任者)と同様に、 CSCO(Chief Supply Chain Officer:最高サプライチェーン責任者)という役職があります。企業がいかにサプライチェーンマネジメントを重要視していることが分かりますね。
企業の競争力の源泉となるから
人口も増え、景気も良くなる「イケイケドンドン状態」の市場であれば売れば売るほど利益が出るので、鎖が切れることさえ無ければサプライチェーンについて特段気にする必要はないかもしれません。
しかし、市場自体の成長が鈍ってくれば話は変わります。需要に基づいて生産されない”作りすぎ商品”は、コストとなって財政を圧迫します。市場が成長しないということは、企業同士で限られたパイを奪い合う構図に変わります。サプライチェーンがグダグダな会社というのは、サプライチェーンのピース同士の連携が取れていないことがほとんどなので、それが企業の競争力を阻害します。具体的には、
- 生産工程や在庫管理が不足しており、不良品が多く発生する。
- 顧客からの商品やサービスに対するクレームが入っても、開発や生産が改善されない。
- 生産から出荷までに時間がかかりすぎて、店頭に並んだ頃にはブームは終わっている。
- 需要の変動に対応できず、度々欠品を起こす。
こういった状況は顧客満足を低下させ、結果として企業の衰退につながります。
上記をいち早く察知し、サプライチェーンの大改革を成功させたのが、トヨタ自動車です。
彼らは、戦後景気で経済上向きの中、「この景気はいつか終わる。そうなったら米国式の”一度にたくさん作ってたくさん売る”方式は通用しなくなる」と予感しました。世の中の常識を疑い、ムダの無い理想のサプライチェーンを追求した結果、有名な”トヨタ生産方式 (Toyota Production System)”を確立させたのです。
ビジネスがグローバル化しているから
様々な理由により、サプライチェーンは国境を越えて広がっています。時には安価な労働力を手にするため、限定した場所でしか取れない資源を使用するため、新たな市場を開拓するため、等々。
サプライチェーンが広範囲に渡る場合、その最適化や管理・制度は難しくなります。材料一つをとっても仕入先をどこにするかによって原価が大きく変わります。また、地政学的リスクも異なりますし、ストライキや災害も視野に入れておかなければ、経路の分断により配送が長期間ストップ→その結果商売ができずに倒産、なんてことも起こり得ます(今現在流行中のコロナウイルスによるサプライチェーンの崩壊なんかが、良い例です)。
要するに、強靭なサプライチェーンを構築できない会社は生き残れない時代になってしまったということです。
顧客の価値感が多様化しているから
マーケティングの世界でも、「顧客のニーズは多様化してきている」と言われます。従来型のマス広告(TVなどで均一の広告を大衆に向けて発信する)は効果を失いつつあり、代わりに個人にカスタマイズされたレコメンド広告が増えてきています。
ビジネスの世界も同じで、個々の顧客にあった価値を提供できる企業、あるいはその価値観の変化に柔軟に対応し追随できる企業が生き残っています。ただ、それを実現するのは非常に難しいです。何故なら、顧客に合わせて商品やサービスをカスタマイズして提供したり、時代に合わせて提供する商品やサービスを柔軟に変更するのにはコストがかかるからです。顧客の好みに合わせて工場の生産ラインを都度改造していては埒が明かない。サービスをガラリと変えるたびに従業員を教育し直すのか?といった具合です。
ここで、サプライチェーンマネジメントの出番です。これは、「いかに常識を覆すか」の学問・領域なのです。
まとめ:再び注目される戦略
いかがでしょうか? サプライチェーンマネジメントの大枠を掴んでいただけたかと思います。
今後も、サプライチェーンマネジメントに関する記事をアップしていきますので、ご期待ください!
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