ビジネスには、リスクが付き物です。リスクの無いビジネスや案件なんて存在しません。
今回は、「ファイナンス」の文脈で”リスク”という言葉を考えていきましょう。
私たちが普段使っているリスクという言葉の意味をそのままファイナンスの文脈で使ってしまうと、それは大きな勘違いとなります。
記事を読んで、しっかり押さえておいてください。
※今回の記事は、こちらの本を参照に執筆しています。
初心者にもわかりやすくファイナンスの基礎を教えてくれる良書です。
ご興味のある方は、ぜひ読んでみてください!
「リスク」という言葉に対する勘違い
※引用:https://blog.paid.jp/?p=908
リスクという言葉には、ネガティブなイメージを持つのが普通です。
例えば、こんな使われ方をします。
「この投資にはリスクが伴う。」
「このビジネスは、リスクが低いから良い案件だ。」
つまりリスクとは、将来何か悪いことが起こってしまう可能性のことを指します。
しかし、ファイナンスの側面から考えると、リスク=悪ではありません。
ファイナンスにおける”リスク”とは、ある事象(ポジティブなこともネガティブな事も)が起こるかどうかわからない状態を指します。
つまり、結果のばらつき(不確実性)のことを、リスクと呼びます。
以下のような例を見てみます。
- プロジェクトAは、100億円の収益に対して150億円の損失(つまり50億円の赤字)となることが確定している。
- プロジェクトBは、150億円の収益に対して100億円の損失(つまり50億円の黒字)となることが確定している。
- プロジェクトCは、50~150億円の収益に対して10~50億円の損失(つまり、最大で140億円の黒字、最低で利益0円)となる。
3つのプロジェクトのうち、AおよびBはリスクが無く、Cは最終利益に0円から+140億円のバラつきがあるため、リスクが高いと判断されます。
ファイナンスの世界では、プロジェクトAのような「確実に損をする状態」をリスクとは呼びません。確実に赤字になることが分かっていれば、それに対する打ち手が存在するからです。
一方でプロジェクトCは、赤字になることは無いものの、見込み利益に大きな幅があり、それがどの程度に落ち着くのかを見通すことができません。
コントロールできるリスクとそうでないもの
リスクを”不確実性”と捉えた場合、リスクは2つの種類に分けることができます。
1つは、コントロール可能なリスク、もう1つはコントロールできないリスクです。
コントロール可能なリスクは、ユニークリスクと呼ばれます。
例えば、サンオイルを販売する事業を行っていたとすると、その売り上げは天候に大きな影響を受けると思われます。
雨の日が多くなると、サンオイルを持って海に出かける人の数が減る可能性が高いからです。
もし、サンオイル以外に雨傘を販売する事業をやっていたとします。雨の日が多くなれば、雨傘の売り上げが伸びるはずなので、雨傘販売事業によりサンオイル事業のリスクをコントロールできたということになります。
一方、コントロールできないリスクをシステマチックリスクと呼びます。
もし、政府が消費増税を発表したとしたら、サンオイルを売っていようが雨傘を売っていようが、消費全体が落ち込むでしょう。
このような避けられないリスク(ここでは増税リスク)をシステマチックリスクと呼びます。
ポートフォリオによってリスクをコントロールする
株式を保有する場合は、前述のユニークリスクを下げるように株式のポートフォリオを組みます。
株式のポートフォリオというのは、保有する株式の組み合わせのことを指し、1社だけではなく複数社の株式の組み合わせを選んで保有するイメージです。
現実では、先ほど紹介したサンオイルと傘のように、互いのユニークリスクを完全に打ち消す組み合わせは存在しません。
よって、株価の変動を打ち消してくれるような様々なタイプの株式をポートフォリオに組み込んでいくしかありません。
株式市場のすべての株式を組み込んだポートフォリオは、マーケットポートフォリオと呼ばれます。
皆さんも耳にしたことがあるような、日経平均、TOPIX、ダウ平均等がそれにあたります。
つまりこれらのポートフォリオは、ほぼシステマチックリスクのみを抱えたものになります。
ビジネスにおいて、リスクを負っているのは誰か?
ビジネスのリスク、つまりビジネスが上手くいくかどうか分からないという不確実性、を負っているのは、社員でもなければ幹部でも社長でもありません。
会社がお金を借りている相手、つまり債権者でもありません。
ビジネスのリスクを負っているのは株主です。
なぜなら、ビジネスが上手くいかず倒産してしまった場合、社員や幹部、社長は資産を失ったり債務を抱えたりしません(職を失って路頭に迷うかもしれませんが)。
債権者は、企業を清算する際に優先的に借金を利子付きで返してもらえます。
ところが、株主(投資家)は、自身が投資した元本を失ってしまいます。
つまり、リスク分散しておかなければならないのは株主だということです。
それでは、サンオイル販売会社の株主は、リスク分散のために「天候不順に備えて雨傘を売りなさい」と経営陣にけしかけるでしょうか?
答えは”No”です。
投資家は、何もサンオイル販売会社だけに投資しているわけでは無いはずなので、サンオイル販売事業の不確実性が高いと思えば、雨傘を販売している企業に分散投資すれば良いんです。
ここに、事業を多角化したい経営陣と、単一事業を続けてもらいたい株主との対立構造が見えてきます。
経営陣としては、事業を多角化しておけば企業全体としての利益の変動幅を小さくすることができますので、経営が安定します。
一方で、シナジー効果(サンオイルと雨傘を両方売っているからこそ発生するメリット)が生まれない限りは、事業多角化によって企業価値が上がることはなく、間接費が膨らむくらいなら多角化せずにサンオイルだけ作っておいてくれ、と思っているわけです。
まとめ:”リスク”って間違って捉えていませんか?【ファイナンス基礎】
いかがでしょうか。リスクの捉え方というのは、ファイナンスを勉強する上で非常に大事なポイントです。
この理解は、いかにしてシステマチックリスクを減らしていくのか、という議論に繋がりますので、是非押さえておいてください。
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