近年注目を集めるビジネス用語の一つに、”ブロックチェーン技術”というものがあります。
ビットコインを通じてこの新技術を知った方が多いと思いますが、フィンテック分野以外にも、ブロックチェーン技術の活用が期待される分野はたくさんあります。
今回は、それら有望な応用先の一つである食品分野における利用方法について、お伝えしたいと思います。
結論を先に示すと、ブロックチェーン技術は、①食の安全の証明と②新たな価値の付加の2つの面で、食品産業を変える可能性を秘めています。
以下にて、詳細にご説明します。
食の流通が抱える問題
スーパーマーケットに行けば、様々な種類の食品を手にすることができますが、これらの食品は独自の流通経路を経て、小売店までたどり着きます。
調達・製造:原材料の栽培や飼育、食品の加工等
物流:市場・協同組合・小売店舗までの輸送、卸売
販売:小売店での販売
消費者:わたしたちの食卓・料理
食品の種類によって流通経路は様々ですが、生産場所(農場や漁業場)から家庭の食卓にたどり着くまでに、複数のプレーヤーが関係することがほとんどです。
①安全性に対する疑念
言わずもがな、食の安全性の確保は生産者や製造者の至上命題です。
顧客の最大の関心事の一つであり、安全性が保証された食べ物を買いたいはずです。
しかし、消費者として食の安全を確かめる手段は、言ってしまえば「売り手を信じる」以外にありません。
野菜がどこで作られたのか、どんな農薬が使われたのか、いつ加工されたのか、賞味期限はいつまでなのか。
これらすべて、売手が食品に貼り付けたラベルに書かれた情報を信用して判断するしかありません。
実際に、とある企業が食品の賞味期限を改ざんしてスキャンダルとなった例も存在します。
当然、そういった食品に関わる危険から消費者を保護するための措置は講じられていますが、危険な食べ物は口にしてしまったらアウトなのですから、問題を根絶することは難しいと言えます。
もちろん、企業側としても食の安全に関するスキャンダルは何とか避けたいところです。
いくら顧客の口に合う人気商品を世に送り出し大成功を収めたとしても、一度食中毒を起こせば、場合によってはそのブランド価値は地に墜ちてしまいます。
ただ、冒頭で述べたとおり、食のサプライチェーンには様々なプレーヤーが関係しているため、安全性の証明も一苦労です。
仕入先の農家が、実はこっそり健康被害をもたらす農薬を使っているかもしれない…
卸売業者が、冷蔵設備を使わずに生魚を運搬しているかもしれない…
このような不安が拭えません。
②安全性を付加価値にするのが難しい
逆に、健康に良い食品の生産者にとっても、食の安全証明は大きな課題です。
例えば、遺伝子組み換えを行わず、無農薬で栽培した野菜は、農薬をバンバン使って大量生産された野菜よりも高値で流通されるべきです。
しかし、その野菜が本当にヘルシーな野菜かどうかを証明する術が生産者にはありません(信用してもらうしかない)。
よって、安全性への配慮を販売価格に反映させるのが難しく、手間暇かけた生産者ほど利益が目減りすることになりかねません。
消費者は安全な食べ物、体に優しい食べ物を望んでいるにもかかわらず、生産者にとっては「おいしくない」市場となってしまっています。
食品分野にブロックチェーン技術を活用するメリット
そこで、ブロックチェーン技術の登場です。
生産〜流通〜販売〜消費者に渡る一連のプロセスを、改ざん不能なブロックチェーン(分散型台帳)に事細かに記録していきます。
例えば、農家(Farmer)が農協(Co-op)へ、生産したにんじんを段ボールに詰めて出荷する際に、収穫場所や収穫日を土壌の状態に関するデータ(農薬の使用履歴等)と共にブロックチェーン台帳に記録します。
段ボールには、位置情報や温度をトラッキングできるIoTデバイスを同梱しておくことで、段ボールが農家を出発した後の流通経路や保管状態に関するデータを収集できます。
農協に到着したら、集荷日をIoTデバイスが集めたデータと共にブロックチェーン台帳に記録します。
このような仕組みを、サプライチェーン全体に張り巡らせることで、複雑な流通プロセスを「見える化」させるのです。
①食の安全性を証明する
ブロックチェーン上に記録した情報は、消費者にも開示されます。
例えば、スーパーで野菜を買うとき、
「このトマトは、収穫から2日しか経っていないから新鮮だわ。」
「このお刺身は、加工された後はずっと5℃以下をキープされていたみたい。」
このような感じで、棚に陳列される前の情報を、売り場で読み取ることができます。
ブロックチェーン導入は、流通上の取引にも影響を与えます。
台帳は、生産者、加工業者、卸売業者、小売店等、関わるプレーヤーすべてが閲覧可能であり、不正な記入や改ざんを相互チェックできます。
小売店としては、農家や食品生産者の安全管理に対する信用を、ブロックチェーン技術によって裏付けることが可能です。
②新しい価値を付加する
とは言っても、買うもの全ての流通状況を確認する消費者は少数派でしょう。
であれば、ブロックチェーンに情報が記録されようがされまいが、あまり変化は無いように思えるかもしれません。
しかし、食品を得る側としてはブロックチェーン導入は大きな武器になります。
消費者が食品の生産や流通の様子まで探ることができるようになるということは、「良い生産・流通」と「悪い生産・流通」を明確に分けることができるようになった、ということです。
生産者は、手間暇かけた分だけ価格に反映させることができますし、環境負荷の少ない生産方法を採用することで、エシカル消費需要を満たすこともできます。
まとめ:ブロックチェーン技術の将来性
ブロックチェーン技術を活用した食の流通改革については、各地で様々な実証実験が行われています。
世界に目を向けてみても、大企業からスタートアップに至るまで、様々な企業がご紹介した類のビジネスモデルを実用化させています。
食品に貼られたQRコードから流通情報を読み取りながら、買い物をする日常が当たり前になる日も近いのかもしれません。
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