気づかないうちにハマってる!? リーダーが知っておくべき認知バイアスとは(リーダーの心理学)

リーダーの心理学

今回は、リーダーのための心理学 第4段として、私たちが意識しないうちにハマってしまう「認知バイアスの罠」についてお伝えしたいと思います。

人間の脳は、生存のために欠かせない数々の驚異的な能力を兼ね備えていますが、それらの能力は必ずしも “常に正しい判断を下すことができる”ようにデザインされたものではありません。

そのため、冷静に考えれば「ちょっと変だな」と思うことも、あたかも正しい答えのように感じてしまうことがあります。

このような、人間の意思決定や判断に影響を及ぼす「脳のシステムエラー」のことを、認知バイアス(cognitive bias)と呼びます。

実は、以前の記事:ヒューリスティックがどのように私たちの意思決定をジャマするのか?にてご説明した “ヒューリスティック” も、この認知バイアスの一つです。

認知バイアスのやっかいな点は、「当人は、認知バイアスがかかっていることに気づくことが難しい」ということです。

周囲にそれを指摘してくれる優秀な方がいれば良いのですが、組織内での立場が強くなればなるほど、誤りを指摘してくれる人は少なくなっていくでしょう。

さらには、認知バイアスには万人が共通して持つ(個人差が小さい)ものも多いため、組織全体がバイアスにかかってしまう(指摘する人が居ない)ことも少なくありません。

ビジネスリーダーとしては、組織総倒れを防ぐためにも、認知バイアスに対するエラーチェックがかかるようにしておきたいものです。

その方法は、

  • どんな認知バイアスが起こり得るか?
  • どんな時に起こるのか?
  • どのような悪影響があるのか?

をあらかじめ知っておき、意思決定の際にそれらを振り替えることができるようにしておくことです。

以下に、リーダーが知っておくべき認知バイアスについて解説します。

リーダーが知っておくべき5つの認知バイアス 

① 確証バイアス

特定の事柄を説明するのに、都合の良い情報ばかりを集め、それを否定するような情報の存在を無視してしまうバイアス。

例えば、とあるパソコンメーカーが、業績不振のノートPCの販促のためテレビコマーシャルを打ち、1ヶ月後にそのPCの販売台数が1.5倍にまで増加したとします。

そのメーカーは、テレビコマーシャルの効果が明確に現れた!とマーケティング部門を称賛すると思いますが、販売台数が増加した原因は他にも考えられるはずです。

テレビコマーシャルではなく、家電量販店が行ったキャンペーンや店頭販売における販促の努力の結果かもしれませんし、とあるインフルエンサーがフォロワーにそのPCの良さを宣伝したことが影響しているかもしれません。

「コマーシャルが上手くいってほしい」という心の底にある思いが、目の前に現れた「コマーシャルは成功したようだ」という可能性に飛びつき、「実はコマーシャルは販売台数の増加に関係ない。」という望まない結果の可能性に目を瞑ってしまう。

これが “確証バイアス” です。

テレビコマーシャルは効果がある!という成功体験を得たマーケティング担当者は、次の新製品にも同じようなマーケティングプランを組み、「あれ?今度は全然効果が無い…」と大コケしてしまうことは目に見えています。

余談ですが、インターネットやSNSからの情報取得は、確証バイアスを助長する可能性が高いと言われています。

検索履歴に基づき類似の情報が優先的にページ上に出現したり、考え方の似ているフォロワーの発言が優先的にタイムライン上に現れるため、反対意見から自ずと遠ざかり、賛成意見が増幅されてしまうからです。

対策

確証バイアスを避けるには、意識的に反対意見に耳を傾けることが一番です。

耳障りの良い報告に惑わされず、「販売台数が上がった他の要因は無いのか?」と反証を探すクセをつけてください。

②ハロー効果

人物や物事に対する評価が、それらが持つ別の明確な特徴に引っ張られることで、歪んだ評価を下してしまうことです。

「大学を卒業していないA君は、大して仕事はできないだろう」

「いつも元気よく挨拶をするBさんは、いつも真面目に仕事をこなしています」

このように、仕事の出来や取り組みの姿勢に対して直接的に影響しない特徴が、評価に大きく影響するバイアスを指します。

他にも例はあります。

  • 特定の分野で権威を持つ社員の言うことは、たとえ専門外のことであってももっともらしく聞こえる
  • 外見の良い人の発言は、そうでない人に比べて信頼度が高いように思える

対策

組織のリーダーとしては、ハロー効果によって歪められた人事査定や意見の採用があってはいけません。

客観的事実に基づき、その妥当性を判断する必要があります。

③コンコルド効果

別名:サンクコスト効果とも呼ばれ、「たとえ途中で上手くいかないことが分かったとしても、時間的・金銭的な投資をやめられない」心理状態のことを指します。

例えば、あなたがとある大学の機械工学科3年生だったとします。

在学中、料理の楽しさと自分の持つ料理の才能に目覚め、料理人を目指すことを心に決めました。

長い下積み時代が必要とされる料理人としての大成を考えれば、課題に追われる多忙な大学生活から脱し、有名な料亭に弟子入りして腕を磨いた方が良さそうです。

しかし、あなたは大学を辞めませんでした。

「あと大学生活は2年足らずなんだから、卒業はしておこう。」

あなたがもし、大学1年生であれば、判断は変わったはずです。

すでに投資している大学2年分の学費とその時間が “無意味”になってしまうことを嫌がり、たとえ大学で学んでいる機械工学が料理人の道には何も寄与しないと頭では分かっていても、もう2年分の学費と勉強のための時間を “浪費” し続けてしまうのです。

これはビジネスにおいても頻発します。

とある薬剤メーカーが、がん治療のための画期的な治療薬:XYZの開発に、これまで500億円を投じてきました。

ところが開発は難航し、XYZの開発にはあと1000億円の投資が必要との試算がでています。

そこへ、研究チームが同等の性能がある治療薬:ABCの新規開発プランを提案してきました。

ABCは、開発に800億円の投資が必要です。

この状況では、薬剤メーカーはXYZの開発を中止し、ABCの新規開発に今すぐ切り替えるべきであることは明白です。

同等の製品が200億円も安く手に入るのですから。

しかし実際は、すでに使ってしまった500億円に加え、XYZ開発チーム編成のために集められた人材、開発に投じた時間的資源等、それらすべてが薬剤メーカーの判断を鈍らせてしまうのです。

対策

コンコルド効果を避けるには、ゼロベース思考が不可欠です。

内容はシンプルで、これまでのことは全て忘れて、ゼロベースで判断します。

薬剤メーカーは、XYZの開発費500億円とその他割いた手間や人材は、XYZ vs ABC の判断材料に含めてはいけません。

それらはすべてサンクコスト(埋没費用:もう手元には戻ってこない費用)と考えて判断する必要があります。

④正常性バイアス

自分に都合の悪い情報を、都合良く解釈してしまうバイアスです。

これは、災害発生時の集団心理を説明するのに多用される理論です。

大型台風の接近に伴って人命の危機にさらされた地区で、自治体がいくら防災無線で避難を呼び掛けても行動に映さず、結果として逃げ遅れてしまうという事例を聞いたことがあるかと思いますが、この時に逃げ遅れた人々の頭には、

「これまでも何度も大型台風を経験したが、被害を受けたことはない。今回も大丈夫。」

「万が一のために、自治体も大げさに言っているのだろう。」

このような、目の前の危険の度合に基づいたものではない、自分に都合の良い考えが浮かびます。

ビジネスにおいても、正常性バイアスは作動します。

顧客に取ったアンケートからサービスに対する不満のコメントを見つけた時は、
「まぁ、いろんなお客さんがいるからな。」

店頭に訪れる客数が減ったのに気づいた時は、
「季節によって客足は変わるからな。」

前年比売上が落ちているのに気づいた時は、
「この程度の売上変動は過去にもあった。」

赤字に転落した時は、
「この程度で潰れてしまうほど、うちの会社はヤワじゃない。」

危機の度合いに合わせて、もっともらしい言い訳が頭に浮かんでしまい、それが心を落ち着かせるのです。

さらに、上の例のように、ゆっくりと近づいてくる危機に対して人間はさらに鈍感なため、注意が必要です。

⑤後知恵バイアス

物事が起こった後、その結果を見てそれは”予見可能だった”ように考えてしまうバイアスです。

例えば、印刷機メーカーα社が、デジタル化の潮流をいち早く捉え、有機ELディスプレイ製造事業を立ち上げたものの、その多角化に大失敗したとします。

周囲の人間は、

「まだ印刷機の需要は根強いんだから、既存事業に集中すべきだったんだよ。印刷機と有機ELディスプレイは全然違う商品なんだから、競合他社に勝てる訳ないでしょう? ダメな社長だな。」

と、α社 社長の先見の明の無さを批判するでしょう。

しかしこの批判は、実際に起こってしまった結果以外の、 “起こりえる可能性”を無視しています。

例えば、印刷機に対する市場の変化。紙媒体離れが進んでいることは明白で、印刷機一筋でやってきたα社が多角化によるリスクヘッジを考えるのは妥当と言えます。

もし多角化に挑戦しなければ、近い将来に印刷機市場は衰退し、打つ手無しの状態に陥るかもしれません。

加えて、印刷機製造ノウハウが有機ELディスプレイ製造に生きるかどうかは、この結果から結論づけることはできません。

仮にα社が多角化に成功していたとしたら、「α社が印刷機製造で培った技術は、同じハイテク商品である有機ELディスプレイ製造と親和性があるんだ!」と感じてしまうのではないでしょうか。

つまりこの批判は、α社が多角化に失敗したという事実があるから言えることで、「社長にとってのベストな判断は何だったのか?」という問いに対して、答えを与えないのです。

このように後知恵バイアスは、事業に対する評価や人事評価を歪めてしまう可能性があります。

さらに、「そんなの考えたら分かるでしょ!」と失敗の原因を「担当者の無能力さ」に押し付け、根本的な問題解決ができず、同じ過ちを繰り返してしまうこともあります。

対策

後知恵バイアスは、結果のみに注目してその結果に至るプロセスを無視することで起こります。

当事者の立場に立って振り返ることで、失敗(あるいは成功)の根本原因や対策が浮かび上がってきます。

まとめ:認知バイアスはまだまだ沢山あります

いかがでしょうか。今回は、数ある認知バイアスのうち、ビジネスリーダーが押さえておくべき厳選5つ(①確証バイアス、②ハロー効果、③コンコルド効果、④正常性バイアス、⑤後知恵バイアス)について解説いたしました。

さらに興味をお持ちの方は、こちらより他の認知バイアスについて調べることができますので、ご確認ください。

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