ヒューリスティックがどのように私たちの意思決定をジャマするのか?

リーダーの心理学

どうも。心理学シリーズ第3弾、ヒューリスティックについてご紹介していきたいと思います。

ヒューリスティック(Heuristic:発見的手法)とは、「100%正解ではないにしても、ある程度正しい選択ができるように備わった思考のクセ」のことを指します。
これは、日常生活を円滑に送るために人間の脳に備わった素晴らしい能力なのですが、時としてその能力が誤った判断につながります。

この記事では、ヒューリスティックがどのようにはたらき、それらが私たちの意思決定にどのように悪影響を及ぼすかを見ていきましょう。

最後に、ヒューリスティックに惑わされることなく、正しい意思決定を行うためのノウハウもまとめます。

ヒューリスティック(発見的手法)

ヒューリスティックは、ヒトが意思決定するときに無意識に使っている判断基準やヒントのことを指します。経験則ということもできます。
ヒトは、特に難しい判断を迫られたとき、すべての可能性を考慮して100%正しい答えを導くのは大変なので、”経験に従えば” みたいなシンプルな思考回路を使って判断します。

例えば、

「2000年〜2005年の間で、アメリカ国民の死亡原因で多かったのは、”糖尿病”と”医療ミス”のどちらですか?」

という質問を聞いて、あなたはどう答えますか?

 

・・・

 

アメリカ人の糖尿病による死亡件数と、医療ミスによる死亡件数をそれぞれご存知の方は、そうそう居ないでしょうから、正確に答えるのはかなり難しい質問だと思います。
そんな時、
「アメリカ人はカロリーの高い食事ばかり食べて肥満の人が多いよな」
「アメリカの医療って進んでるんでしょ?」
のような知識から、糖尿病>医療ミスと判断されたのではないでしょうか。

答えは、2000年〜2005年のアメリカ人の糖尿病による死亡者数は、約155,000件、同じ期間の医療ミスによる死亡者数は、約264,000件でした。
意外にも医療ミスのほうが糖尿病よりもメジャーな死因なのです。

参考:https://gigazine.net/news/20070727_real_threat_to_americans/

ここで重要なのは、「なぜ、そう考えてしまったのか」です。

答えを聞いてから先ほどの問いを考え直してみると、「糖尿病になる=死」ではないですから、糖尿病にかかった人が多いということは直接的に死亡原因になるとは限らない、ということに気づくと思います。
さらに、アメリカで最先端の医療が行われていたとしても、それが万人に行き届いていて、かつその最新医療の “精度が高い” ということにはなりません。

ですが、「糖尿病=死に至る」「最先端医療=死から人を救える」というシンプルな思考回路が頭によぎると、その考え方に飛び付いてしまい、別の可能性(糖尿病になるけど実はそんなにヒトは死んでない 等)を考えることをやめてしまうのです。

ヒューリスティックはどのようにはたらくか

ヒューリスティックには、主に以下の3つのタイプがあります。

  • 代表性ヒューリスティック
  • 利用可能性(想起)ヒューリスティック
  • 固着性ヒューリスティック(アンカリング)

それぞれのタイプを簡単に見ていきましょう。

 

代表性ヒューリスティック

先の例で見た「アメリカ人と言えば高カロリーの食生活している」のように、頭の中にある「〇〇といえば△△」というイメージに基づくヒューリスティックです。

[例]

男の子には青色基調の服、女の子は赤色基調の服をプレゼントすべき

(個人の好みを探り当てるのは大変なので、男には青、女には赤を買っておけば間違い無いだろう、と考えてしまいます。)

利用可能性ヒューリスティック

手っ取り早く手に入る情報で判断してしまうヒューリスティックです。

[例]

飛行機事故のニュースの見た後、飛行機に乗るのが怖くなって自動車での移動に変更する。

(飛行機=死ぬかもしれないという情報を、そのまま意思決定に使っています。少し手間をかけて調べれば、自動車移動の方が飛行機移動よりも死亡確率が高いことが分かります。)

固着性ヒューリスティック(アンカリング)

先に与えられた情報(アンカーと呼びます)に判断が引っ張られてしまうヒューリスティックです。

[例]

10,000円の商品 Aよりも、定価15,000円(アンカー)が5,000円引きの商品Bを買いたくなる。

(本当は、商品Aの方が商品Bよりも質が高いかもしれませんが、その可能性は無視しています。)

ヒューリスティックの引き起こす悪影響

先に書いた通り、ヒューリスティックは、私たちの思考を早めるために編み出した素晴らしい機能です。

人生は選択の連続です。
「サラダを食べるか、ソーセージを食べるか」「コーヒーを飲むか、水を飲むか」「黒い服を着るか、白い服を着るか」
どちらが自分にとって正しい選択なのか、考えていたらキリがありませんよね?

そんな日常生活の些細な選択に対して考えすぎて疲弊しないよう、ヒューリスティックが私たちを助けてくれているのです。

しかし、人生における重要な決断や、会社におけるビジネスの方向性を決める判断にヒューリスティックが働くと、非常にマズいことになります。

もしあなたが、「公務員は残業がなくてホワイトな職場。だから私に合ってる」というヒューリスティックで就職先を選ぶと、フタを開けると実は配属先で業務の負荷がまったく異なっていて、毎日のようにサービス残業する羽目になるかもしれません。

もしあなたがどこかのバス会社の社長で、「最近、バスジャック事件が起きて大変なニュースとなった。だから我が社は徹底したテロ対策を行う」と警備強化と防犯対策に大金を注ぎ込んだとします。
これは、バスジャック事件という手っ取り早く手に入る情報に踊らされた利用可能性ヒューリスティックの可能性があります。

もし、バスジャックで乗客が危険にさらされる可能性よりも、日々の運行でドライバーが居眠り運転してしまう可能性の方がずっと高かったら?
テロ対策の前にまず居眠り運転の防止ですよね?
会社のリーダーとして、自身のヒューリスティックにより “論理的でない判断”をしてしまっています。

さらにやっかいなのが、間違った判断をしていたとしても、「自分は正しい判断をした」と信じてそれに気づくことができない、という点です。
だって、自分はそれが「正しい」と思って選択しているのですから。
自身のヒューリスティックを自覚しない限り、何度も同じ過ちを繰り返すのです。

ヒューリスティックに惑わされないように(対策)

ヒューリスティックのメリットとデメリットをご理解いただいた上で、私たちはどのように対処すれば良いのでしょうか?

1. 自分の思考のクセに気づく

まずは、自分が論理的に考えられない瞬間があることを自覚しましょう。過去の自分の(重要な)決断を振り返り、それは正しい判断だったのかを考え直してみましょう。もしそこに後悔があるようならば、どうしてそう考えたのかを振り返りましょう。

例えば私の例を挙げると、進学する大学を選んだ理由は、大学HPに載っていたキャンパスの写真がキレイで、自分の偏差値を考えて合格できそうだったからです。今思えば、すぐに手に入る情報と何となくのイメージで決めてしまったなと思います(大学選びについて、後悔は全くしていませんけどね)。

2. ヒューリスティックに惑わされない環境を用意する

ヒューリスティックは、論理的思考をつかさどるシステム2の怠けグセのひとつと言えます(システム2に関する説明の記事はこちら)。つまり、ヒトは疲れてくると、ヒューリスティックを使ってラクに判断したくなるのです。

皆さんにも、長引く会議にウンザリしてくると、とりあえず現時点で挙がっているアイデアの中で結論を出して、会議を終わらせたくなった経験はありませんか?
次の日に改めて考えてみると、「やっぱり微妙だな」と決断をひっくり返してしまうこともあるでしょう。

そのため、疲れてくる夕方や夜に重要な判断を行わないというのは、ヒューリスティック対策としては有効です。
デキるなビジネスマンが、重要な仕事を午前中に片付けてしまうのは、まだ頭が疲れていないうちに冷静な判断を下すための理にかなった働き方なのです。

また、ヒューリスティックが発動すると、どうしても自分の視野が狭くなってしまうので、
「本当に、私は正しい判断をしているか?」と、自分に考えに批判的になるクセをつけることが有効です。同時に、他人のヒューリスティックな意見に流されなくなります。

自分の視野を広げるために、周囲の意見は積極的に聞きましょう。そうすれば、自分の考え方のかたよりに気づくことができます。

まとめ

今回は、ヒューリスティックについて「正しい意思決定を行うために」という視点で書きました。

この事実を知ったからといって、すぐに行動を変えることは難しいと思います。まずは、過去の意思決定を振り返りながら、ご自身のクセを分析するところから始めてみてください。

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